「最新のディスペンサを導入すれば、コストも削減でき、品質も上がるはず…」。
そんな期待を胸に導入したものの、現場が使いこなせず、かえって生産性が落ちてしまった。
そんな宝の持ち腐れになってしまった設備、あなたの工場にも眠っていませんか?
そのお気持ち、痛いほどよく分かります。
何を隠そう、私、的場も若手時代に全く同じ失敗をしました。
最新鋭の高価なディスペンサさえあれば全てが解決すると信じ込み、オーバースペックな設備を導入してしまったのです。
結果は、コスト増を招いただけではなく、現場を混乱させてしまったという苦い経験だけが残りました。
この記事では、私が国内外500以上の工場を見てきた経験と、あの手痛い失敗から学んだ「本当にコスト削減に繋がるディスペンサ導入」のために、機械のカタログスペックを見る前に、必ず現場で確認すべき”3つの鉄則”をお伝えします。
この記事を読み終える頃には、あなたに最適な一台を見抜くための「思考のフレームワーク」が手に入っているはずです。
なぜ、最新のディスペンサを導入してもコスト削減に失敗するのか?
【原因】多くの人が陥る「スペック至上主義」の罠
最新のカタログを開けば、μm(マイクロメートル)単位の塗布精度や、目にも止まらぬ吐出スピードといった、華々しい言葉が並んでいます。
もちろん、技術の進歩は素晴らしいことです。
しかし、その輝かしいスペックに目を奪われるあまり、最も大切なことを見過ごしてしまうケースが後を絶ちません。
それは、あなたの現場で働く「人」と、そこにある「環境」です。
この手痛い失敗から、私はひとつの哲学を確立しました。
「最高の機械が最良の解決策とは限らない。現場に寄り添わない技術はただの鉄の箱だ」と。
どんなに優れた機械でも、それを使う人や環境に合っていなければ、その性能を100%引き出すことはできないのです。
カタログには載らない「3つの見えないコスト」
スペック至上主義に陥ると、カタログには決して載っていない「見えないコスト」を見落としてしまいます。
例えば、以下のようなコストです。
- オペレーターの習熟コスト:多機能で複雑な機械ほど、作業者が操作を覚えるまでに時間がかかります。その間の生産性の低下や教育コストは決して無視できません。
- 段取り替えのコスト:品種の切り替えが多い現場で、段取り替えに時間がかかるディスペンサを導入してしまえば、機械が止まっている時間ばかりが増えてしまいます。
- メンテナンスのコスト:海外製の特殊な部品が必要だったり、清掃・メンテナンスの構造が複雑だったりすると、維持管理に想定外の費用と手間がかかってしまいます。
これらの「見えないコスト」が、導入後にじわじわと利益を圧迫していくのです。
導入前に必ず確認すべき「3つの現場確認」
では、どうすれば失敗を防げるのか。
答えは、カタログや会議室の中にはありません。
結局のところ、答えはいつも現場にあります。
私が必ず確認していただくようお願いしている、3つの鉄則をご紹介します。
鉄則1:その『液剤』は、どんな性格の旅人ですか?
ディスペンサ選定は、塗布する「液剤」の特性を理解することから始まります。
私はよく、液剤を「旅人」に例えるのですが、その性格は実に様々です。
例えば、粘度。
サラサラした旅人(低粘度液剤)もいれば、ドロドロとした旅人(高粘度液剤)もいます。
家庭で使う醤油差しを思い浮かべてみてください。
あそこに粘度の高いケチャップを入れたら、うまく出てきませんよね。
それと同じで、液剤の粘度に合った吐出方式を選ばなければなりません。
また、液剤がノズルの中を旅する時には、様々な現象が起こります。
力を加えている時だけ柔らかくなる「チクソ性」という性格を持つ旅人もいます。
こうした液剤の個性を見極めずして、最適なディスペンサを選ぶことは不可能なのです。
鉄則2:『作業者』の声に、本当に耳を傾けていますか?
次に確認すべきは、実際にその機械を毎日操作する「作業者」です。
彼ら、彼女らこそが、現場のプロフェッショナルです。
「今の工程で、一番やりにくいことは何ですか?」
「液剤の交換や清掃は、どれくらいの頻度でやっていますか?」
「新しい機械に、どんな機能があったら嬉しいですか?」
こうした「生の声」の中にこそ、コスト削減と生産性向上に繋がるヒントが隠されています。
どんなに高精度な機械でも、作業者が「使いにくい」と感じてしまえば、その能力は半減してしまいます。
ボタンの配置ひとつ、カバーの開けやすさひとつが、日々の作業効率を大きく左右するのです。
鉄則3:ディスペンサの『隣人』は誰ですか?
最後に、少し視野を広げてみましょう。
ディスペンサは、決して単体で仕事をしているわけではありません。
生産ラインという共同体の中で、前後の工程と連携しながら価値を生み出しています。
ディスペンサの『隣人』、つまり前後の工程は誰でしょうか。
前の工程からスムーズにワークを受け取り、ディスペンサで塗布した後、スムーズに次の検査工程へ渡せているでしょうか。
もし、ディスペンサの導入によって前後の工程にしわ寄せがいくようであれば、それはライン全体で見た時に最適とは言えません。
ディスペンサ単体の性能だけでなく、生産ライン全体の流れを止めない、スムーズな連携まで考えて初めて、本当の意味でのコスト削減が実現できるのです。
【的場のおすすめ】失敗しないディスペンサ選定の思考プロセス
ここまで3つの鉄則をお伝えしてきました。
これらを踏まえ、私がお客様に必ずご提案している思考プロセスをご紹介します。
これは本当に、胸が熱くなる技術です。
ステップ1:まずは「現状の痛み」を数字で把握する
不良率は何%か、材料のロスは一日何グラムか、タクトタイムは何秒か。
まずは現状の課題を具体的な「数字」で洗い出しましょう。
これが、導入効果を測るための重要な基準点になります。
ステップ2:複数のメーカーに「同じ課題」で相談する
決して一社の提案だけを鵜呑みにしてはいけません。
先ほど洗い出した「数字」という共通言語を持って、複数のメーカーに「この課題を解決したい」と相談してみてください。
それぞれの専門家から、多様な視点での解決策が得られるはずです。
ステップ3:必ず「実液・実ワーク」でデモ評価を行う
これが最も重要です。
机上の計算やカタログスペックだけで判断せず、必ずあなたが実際に使っている液剤とワークを使って、目の前でデモンストレーションをしてもらってください。
百聞は一見に如かず。
実際の動きを見れば、カタログだけでは分からなかった多くのことに気づくはずです。
まとめ
今回は、製造業のコスト削減を実現するためのディスペンサ導入について、確認すべき3つの鉄則をお伝えしました。
- 鉄則1:『液剤』の性格を理解する
- 鉄則2:『作業者』の声を聞く
- 鉄則3:『前後工程』との連携を考える
一滴を笑う者は、一滴に泣くことになりますよ。
高価な最新鋭機を導入することだけが、改善の全てではありません。
あなた自身の現場に深く潜り、液剤や人と向き合うことこそが、真のコスト削減への一番の近道なのです。
まずは、あなたの現場で使っている液剤のデータシートをもう一度確認し、そして作業者に「今、何が一番やりにくい?」と聞いてみてください。
本当の答えは、いつも現場にあります。